前回までの話はいかがでしたか? そんなことないよ ! とか、そう言われるとそうかもね、とか 意見はいろいろあると思います。どう感じるかは別として、話を進めていきましょう。
******************************************************************************
第5章「あぁ~こういうの欲しかったの! こういうの探してたんだぁ~」ってホント?
消費者は、マーケティング部門が思っているほど自分のニーズを知ってはいないものです。そんな状況のところに、素晴らしい時間や憧れのライフスタイルが「体験」できますよ、と気づかせることで急に欲しくなるのです。そんな事例を挙げてみましょう。
銀座にメゾンエルメスがあります。私は入ったことはありません。シックな内装の雰囲気、機能的でかっこいい什器、いたるところにあるディスプレイや考え抜かれた商品の見せ方、店員の接客、さすがエルメスという豊かな時間を過ごせるのでしょうね。本当にデフレ?
消費が冷え込んでるって??安いものしか売れないのじゃなかったっけ???と言いたくなるような盛況です。エルメスの店内を歩くカップルですが、女性の方は、「あぁ~こんなの欲しかったの」とか、「こういうの探していたのぉ~」とか言いながら、結局、薄いブルーのカシミヤのマフラーを手に取ると、「これいいよねぇ~」とか言って7万円もするマフラーを自分のカードで買いました。彼女は本当にそれを探していたのでしょうか?本当にそれが欲しかったのでしょうか? 彼女はエルメスにニーズがあったのでしょうか?
エルメスに行く女性には明確に欲しいものがあっていく人は多いと思います。が、この時の彼女に、事前に何が欲しい?と聞いたとしたら、「薄いブルーのカシミヤのマフラー」と答えたでしょうか?おそらく、彼女はそのマフラーの存在さえ知らなかったのではないでしょうか。消費者に何が欲しいかを聞くのは、無意味ということです。
いいお店というのは、売り場で自分の欲しいものに出会いやすいように作られている。「商品との出会い」がキーワードです。さきほどの彼女は、「今あたしの目の前の薄いブルーのマフラーに出会い、自分の欲しいものに気づいて、急にニーズが生まれ、買ってしまった。」ということではないでしょうか。消費者は何となく漠然とした欲求しか持っていないのです。だから教えてあげなくてはいけません。どうすればよいかを??
「ニーズを超える」ことが必要なのです。
第6章 体験を作り出せ。小林一三ってどんな人?
ニーズを聞いてばかりいると結構やばいということをいろいろと話してきました。
もうモノは余っています。もうモノは欲しくないのです。お金は使いたいけど、欲しいモノがない。だから「モノ」を売ってはいけないのです。
今、売れているもの、売れていること、人が集まっているレストランやお店、業績の好調な会社には、共通することがあります。それは、
「体験を作り出している」ことです。
体験とは、「ライフスタイル」「価値観」「気づかなかった欲求」「憧れの生活」・・・など
体験を作り出せなくては、そこにあるのは、果てしない泥沼の価格競争で、結果として、石川啄木状態 (働けど働けど・・・) になってしまいます。
小林一三という人、実はすごいんです。話の成り行きからだいたい分かりますよね。
昭和のはじめに、この体験の想像を具体化した人なのです。
この人、阪急の創設者です。明治の終わりに阪急電鉄の元になった鉄道を開業しました。それもほとんど人の住んでいない、寒村に電車を走らせました。(相当バカ呼ばわりされたようです。)しかし、彼の視点は違っていました。開業前に沿線の広大な土地を買い、区画整理をしていたのです。大阪の大都市化による住宅需要を見越していたのです。現在では当たり前ですが、「郊外に住んで、都市に通勤する。」というライフスタイルを作り出したわけです。また、この住宅をサラリーマンが購入できるように、月賦(ローン)も考案しました。飛ぶように売れたのは容易に察しがつくと思います。
さらに、阪急始発駅の梅田に百貨店を作りました。レストランも併設して、家族団らんを演出したのです。電車の吊り広告も小林一三の発想です。もちろん、宝塚歌劇もこの人の発想です。東京宝塚からもじって、命名した「東宝」の映画会社もこの人です。映画会社を作る前に映画館を作り、ネットワーク化して、作った映画を配給する体制(需要)まで考えたのですから、結構すごいですよね。当時(昭和13年)ホテルは帝国ホテルしかなかった頃、ビジネスホテルとして、新橋第一ホテルを作ったのもこの人で、帝国ホテルにもない冷房完備としたので、客室稼動は、帝国ホテル50%に対して、新橋第一ホテルは、90%以上でした。
小林一三は、ニーズに応えているわけではなく、体験(ライフスタイル)を想像して作り出しているのです。消費者の手の届くところにおいてあげているといった感じですね。
第7章 ターゲットとマーケットは違います。
いままでのマーケティング手法は、年齢別にターゲットを分けていました。「ウチは、20代の女性がターゲットだ」とか、「仕事を持つ女性」とか、「子供を持つ若いファミリー層」とかいろいろな年齢を基軸として、捉えていたと思います。
でも、今の時代には、もう効果がなくなっているのです。年齢や性別が同じでも、さまざまな価値観やライフスタイルがあるわけです。価値観別ライフスタイル別に分ける、「クラスター」という概念がターゲットの絞込みでは重要です。
何歳から何歳までのターゲット商品というものだと、どのクラスターにも希薄な存在感で、コウモリ商品になってしまうということです。(誰からも選ばれません。)
★コウモリの話は知ってますよね !!
失敗したのが、無印良品です。ターゲットは「団塊ジュニア世代」で商品企画を行い、売上拡大してきました。商品開発のコンセプトは、「ユーザークレームの積極的な改善によるニーズへの対応」で直進してきたのです。団塊ジュニア世代の生活スタイルの多様化から商品群が拡大し、いつのまにか、「曖昧さ」という霞がブランドにかかってきたのです。
まさにコウモリ商品になりつつあるわけです。でも、社長は偉かった。
松井社長は、今後はライフスタイルをターゲットにすると宣言しました。今後見ものです。
ユニクロ、なかなかですよね。価格が安いというのもありますが、消費者よりも商品企画が先をいっている感じで、次は何を仕掛けてくるんだろうと単純にワクワクしましたよね。服で個性を出すのではなく、スタンダードな服によってその人自身の持つ個性を引き出す、という発想があり、大量生産なのに、それをしっかり意味づけしています。最近ではやや下降気味ですが、やはりすごいです。
WILLって知ってますか?異業種ブランドとして、車やビールや日用品を発売しています。WILLの認知度はかなり高いと思いますが、「売れてないですね」。イメージはありますが、メッセージが無いと言われてます。消臭スプレーのファブリーズって知っているでしょ。WILLのクリアミストも全く同じ時期に発売しました。結果はファブリーズの勝利ですね。WILLの商品は見かけると、これWILLだっと思います。こんな感じのモノいいよねっと思います。でも、それだけで素通りしてしまいます。いわゆる「気づき商品」として良い発想の商品なのですが、特に選ぶ必要性を感じませんよね。ビールでWILLって感じじゃないですよね。売れないのは、曖昧すぎる商品だからです。
企画会社が企画して異業種横断のブランドを作ったのは悪くないでしょうが、結局コウモリ商品になってしまっているということでしょう。
ある会社でターゲットにする女性を徹底的に創出した例があります。花やなのですが、ブランド名として「コンフェス:告白」というネーミングをつけて、花以外にこの理想の女性像に合う商品を品揃えするという考え方でやったものです。
コンフェスがターゲットにする女性の、年齢・出身地・血液型・職業・住所・どんなインテリアの部屋に住んでいて・どんな服装・趣味は・好きな音楽は・好きな食べ物・大学の勉強の専攻は・恋人の趣味は・・・などなどあらゆる角度からターゲットを明確にしたわけです。マニキュアは服に合わせて塗るとか、タイタニックよりXXを見に行くとか、架空の人物像を作ったわけです。そして、この女性のライフスタイルに合う商品を品揃えしたわけです。どんなに良いものや、売れるだろうと思うものも、合わない物は排除しました。
そんな女性いるわけないし、ニッチのマーケットじゃ仕方ないし、・・と思いますが、実は違うんです。女性は新たな価値観によって違うライフスタイルを体験できることで、この商品を購入するのです。ニッチのマーケットを作るというのでなく、絞り込むことで、個性が生まれて、価値観が伝わりやすくなるということなのです。
「ターゲットとマーケットは違う!!」というのはこういうことなのです。
つづく
ISSCコラム編集長 有松勝美
★第7章はちょっと長かったですね。