前回「その1」「その2」「その3」のつづきです。
いままではストーリー立てて説明をしてきた「不のマーケティング」について、少し理論的に説明をしていきます。
■目を向けるべきは「顧客の満足ではなく、不満足」である。
**顧客は「もうたくさんだ」と言っている。**
今は物やサービスが売れない時代になっていますが、この売れないカベを打ち破る事はできるのでしょうか。今市場に溢れる商品やサービスを見たときに、「なくても差し支えない機能」をもった製品が多くなっています。メーカー側は機能をどんどん追加することで、いかにも高付加価値・高機能商品として、消費者の興味を引き、一時的には売れていますが、消費者の真に求めるものからどんどん遊離しているのではないかと思われます。ニーズの先取りという常套句を引っさげて、過剰機能商品を押しつけているともいえます。これが売れないカベの根本的な原因となっていると言えるのてはないでしょうか。
CS経営がどこでも言われています。CustomerSatisfactionで顧客満足度を追求する経営を指しますが、結構、「これであなたは満足するはずです」と満足の押し売りをしていることが多くないでしょうか。ISSCでも顧客第一、品質はお客様の満足度、などとかっこ良く言っていますが、みんなが本気で思っているかどうかは、・・・ですよね。 現在のCS経営と言われるものは、「これならば満足するはずではないか」という推測で商品(サービス)を提供し、満足したかどうかの結果を調査確認し、不満足な点を改良・改善することで次の商品(サービス)を提供する。といった具合だと思います。
満足の提供、過剰満足の押しつけを重ねているうちに、消費者はいつの間にか背をむけることになってきているのではないかと、思われます。
**購買行動の原理を無視していないか**
ひとが行動を起こす原理を数式で表すと、「行動力=不満要因/満足要因X行動能力」。
不満要因が大きいほど行動を起こし、満足要因が大きいほど動かないという公式です。
「おいしくて安くて近くにあるレストラン」という情報を得たときに、満腹状態(満足要因)とハラペコ状態(不満要因)では、行動パターンは異なるでしょう。
「近くに大きなショッピングセンターができる」という情報を得たとき、買い物が便利になって助かると感じる人と、今まで確保されていた日照が遮断されて、迷惑だと思う人では、どちらが行動をするでしょうか?環境悪化というプラカードを持って抗議する行動はあっても、ショッピングセンター大賛成の行動は起きないでしょう。
このように満足要因と不満要因によって、行動は引き起こされているケースが多い事が判ると思います。
購買行動の原理も全く同じと言えるでしょう。この原理こそが「売れないカベ」を突破できるのではないかと思われます。「もっと満足しますよ」という満足追求型の商品やサービスは、売れても長続きはしないものです。「あれば今までよりは満足できるが、なくてもさほど困らない」という商品なので、足腰の強い売れ筋にはなれないのです。お金が余っていれば買うような、購買能力の余力に頼った商品やサービスといえるでしょう。
**過剰供給から発生する不満要因を見つける**
日本の市場は、成熟期に入って久しく、モノやサービスは飽和状態となっています。この飽和状態の裏には、多くの不満要因が芽生えていたり、大企業が見つけられない不満要因が存在しているのです。宅配便などは、不満の解消を商売に結びつけた好例といえます。コンビニエンスストアの隆盛も、不満要因の解消によるものといえます。ダイエットブームも長いですが、これも過剰供給によって新たに生まれたブームといえます。
このように、市場が成熟し、モノやサービスが飽和状態になっても、不満要因がなくなるわけではなく、市場が成熟した事によって新たに発生してくる「不満要因」があるのです。
数々の過剰機能を付けて売っている家電製品などは、過剰機能がついてるがゆえの不満が発生してくるのではないかと思われます。
**企業活動の原点は顧客の不満要因にある。**
過剰満足追求型商品の代表として、「ブランド商品」「車」が上げられる。購買動機は購買能力に左右される典型的な商品と言える。若者は、車に夢中になり、無理して車や高級ブランドを買っている姿は、好ましい消費社会とはいえない。カード破産などの悪しき事態になっているケースもある。若者は、時間やエネルギーを持て余し、不満要因が鬱積している。彼らの本質的な不満要因に近づいていけば、新たな購買行動の対象が生まれるのではないかと思われます。
ニーズという言葉は良く聞きます。ニーズの掘り起こしという言葉も多くの企業が使っています。ニーズを「必要性」と捉え、掘り起こしといいながら、探し出すのではなく、勝手に推測して「必要なはずの商品」にしているのではないかと思います。
Needは必要とは別に、欠乏・不足という意味もあります。Wantsも欲しいとは別に、欠けている・不足しているという意味もあります。今、企業が目を向けるべきは、顧客の「欠乏」「不足」ではないかと思います。NeedやWantsに含まれている、「欠乏」「不足」こそ、企業の原点であり、源であるといえるのではないでしょうか。
キーワードは「不」です。 不満,不安,不便,不足,不備,不快,不服,不良,不調,不振 など。
これらをまとめて「不満要因」としますが、これらの不満要因に基づいた商品・サービスの開発や販売活動をしていくことが、これからのビジネスに必要なことだと思います。
つづく
ISSCコラム編集長 有松勝美