前回「その1」のつづきです。
**バランス理論の糸口**
こうして私は見習い期間から2week遅れて、晴れて正社員となることができた。実は上司にお願いし、契約完了まで期間の延期をやってもらっていたのである。ノルマ3件はすべてS社長からいただいたようなもので、感謝の気持ちで一杯になった。
なぜ、S社長は、私に3件もの契約をプレゼントしてくれたのだろうか。それは、奥さんの病気という「不」の状態、S社長の最大の不満要因を、誠意をもって取り除いてあげたからといえる。
S社長は、奥さんの病気が快癒したことによって精神的満足感を得た。S社長にその満足感を持ち運んだのは、住宅のセールスマンである私であった。私が医者であったら、S社長は私に料金を払えばいい。それでお互い物心ともに
バランス状態になる。
しかし私が住宅のセールスマンであった。S社長は私に別の形のお返しをしなければ、心理的な面で
アンバランス状態に陥ってしまう。心の負担を感じたままになってしまう。S社長が心の負担を取り除き、バランス状態に持っていくために、3件の契約をプレゼントした。これで、お互い快適なバランス状態が出来上がったわけである。もちろん、住宅購入のニーズを持っていたことが、ベースにはある。
以上のバランス理論は後から気付いたもので、その時は計算されたものでなく、力になりたいとの思いが自然に湧き上がって行動したものであった。
**不のリサーチ**
S社長のおかげでめでたく正社員に登用され、いよいよプロのセールスマンとしての生活が始まった。顧客の「不」を解消していく営業方法が、もしかしたら実績UPの切り札になるかも知れないという感触もつかんだ。私はかなり張り切ってフィールドに飛び出していった。しかし、セールスの世界はそんなにあまいものではなかった。思うように契約はとれず、再び悩む事になる。
悩むうちに少しづつ気付いてきたことがある。当時のセールスの世界では、とにかく訪問件数を増やす事が、一番重要なことと教えられていた。“犬も歩けば棒に当たる”式の考え方だ。いかに多くの顧客に接し、いかに中身の濃い話をしたかで、実績が決まるということになる。「私なら15分で売る」といったミシンのTOPセールスがいましたが、私には15分で顧客を説得する技術はありません。15分で相手を説得する技術はありませんでしたが、話を聞く中身の濃さでは普通のセールスマンより上になれるという思いは持っていました。顧客の抱える「不」を引き出し、これを解消する方法を取るためには、
それこそ本音に迫る中身の濃いコミュニケーションをしていかなくてはならないと考えていたのです。
私流に中身の濃いコミュニケーションをしていると、一日何件も訪問できない。質の方は高くても量が稼げないから、実績は伸びていかないのでした。訪問件数の数値を上げるにはどうすればよいか、それが私の最大の課題でした。
私が考えた、「自分は動かずにコミュニケーションの機会を作る手段」は、DMと電話とFAXのミックスでした。現在ではさしづめ「eメール」などの活用になるのでしょう。
まず、推定見込み客にDMを送る。未開封のままゴミ箱行きをさけるため、往復ハガキにすることにしました。そして、到着した頃を見計らって、電話でのフォローを行うわけです。
ハガキに何を書くか・・返信用に「不のリサーチ」内容を○×で記入してもらう事にした。タイトルは、「ご相談カード」や「お尋ねカード」として、受け取った側が負担に感じないような内容を考えてやってみた。押し売りと取られないように、苦労して内容を考えた。無い頭を絞りに絞った!
**実績がぐんぐん上昇**
この往復はがきによる「不のリサーチ」は、販売行動の段階でいえば、プレアプローチに当たる。プレアプローチは、顧客の情報収集が第一でまだ、売り込みはしない。医者で云うならば、「主訴」で、患者が悩みを訴えることに当たる。「問診」も同様の手段である。いままでは、プレアプローチも直接訪問で行ってきたのです。見習い期間の3ケ月は、4000件近くを訪問し、問診できたのは、100軒にも満たなかったと思う。
私はこの往復はがきのDM作戦とTEL確認+
「不のマーケティング」の併用で、契約件数は月を追うごとに急上昇し、ついには地区のTOPに、更には全体のTOPの成績を収めるに至ったのです。教えられたものではなく、私自身が考えたオリジナルだけに、私に芽生えた自信は大きかった。以降、およそ10年間にわたって私はTOPセールスの地位を守りつづけたのです。
彼の話はここでひと段落させていただき、商品が売れるメカニズムに移りましょう。
**AIDMAではもう売れない**
A:Attention=>注目させる。
I :Interest =>興味を持たせる。
D:Desire =>欲求を起こさせる。
M:Memory =>記憶させる。
A:Action =>購買行動を起こさせる。
このAIDMAは、
顕在意識に対する操作で、相手にその商品やサービスに対する意識があることを前提としている。これからは、
潜在意識も対象にしたプロセスが必要だと考えている。
AIDMAの法則で展開してきた各社は、AIDMAの技術を発達させる事で、販売拡大やシェア拡大を図ってきた。ネーミングの技術やイメージ戦略の技術を高める事に躍起になっている。ビールなどはその典型と言えるほど、イメージ戦争になっている。「ビール党に言わせると味の違いもあるのだという反発もあるかと思うが・・」
家電の一時流行した「ファジー」なども、この法則の典型といえる。
「こういう製品を開発したのですが、いかがですか?」と注目させ、目新しさや利点を説得する事によって、興味を持たせ、欲求を起こさせる。それを繰り返して記憶させ、購買行動を喚起する。
また、この一連の流れを支えるセールステクニックも洗練されたものとなり、セールスマニュアルに基づいて、セールストークをしゃべり、顧客の購買意欲を掘り起こしている。
このAIDMAの法則は、商品を売っていく際には必要なことではあると思うが、所詮企業が一方的に作った、モノやサービスを上から下に流し込むための作戦といえる。
このAIDMAの法則だけでは、もはや売れない時代だと思える。
**AIDMAの前後に不満要因**DAIDMAC**
D:Discontent=>不満
AIDMA
C:Claim=>クレーム/苦情
AIDMAの法則で活動する前に、顧客に潜在している不満要因を聞き出すことが、出発点とする考え方で、対話の中では、顧客自信が気付いていない不満要因にも気づかせることも大事だと考えている。
AIDMAについても、主語を「不満要因」として考えたものにする事が必要です。
A:不満要因を解消する提案によって注目させる。
I :これなら不満要因を解消してくれそうだという形の興味を持たせる。
D:買えば不満要因が解消するかもしれないという確信をもたせ、欲求を起こさせる。
M:記憶させる。
A:購買行動を起こさせる。
C:買った商品や受けたサービスに対する不満要因を聞き出す。
顧客の不の情報に耳を傾けて提案していき、販売した後もフォローしていくという、極めて当たり前の事ですが、以外にできていない事だと思います。
いろいろなアイデアから作った商品を売ることに躍起になっているのが現状で、ユーザーの不満要因から作られた商品やサービスでないものが多いというのが、現状ではないでしょうか。
つづく
ISSCコラム編集長 有松勝美