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代表が思いのまま記載するコラム

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「不のマーケティング」 その1

ISSC コラムNO.10

人が物を購入するときの「購買行動」には、潜在的or表面的な「不満要因」があるという話です。ISSCのビジネスに直結するかどうかではなく、新たなビジネスを考える時に、一つのきっかけになればと思い、もう少し具体的に紹介しようと思います。
その前に、ここにTOPセールスに上り詰めたひとりのセールスマンの実話を紹介します。
(文章は私か適当に脚色しています。あしからず・・)
ところで今回のこの話は少し長丁場です。全5回のシリーズものでいきます。ちょっと長いかな?

**売れない営業マンの悩み**
技術部門から営業に転身したのは、1ケ月前。自分で望んでセールスマンになってみたものの、さっぱり売れずクビ寸前のところまで追いやられていた。どうしたら売れるのか、悩みに悩んでいた。もともとは、融通の利かない人間であるから、売れなくてもすぐにあきらめて転職を考えるようなこともなく、ひたすら頑張りつづけていたのであるが、ただ、猪突猛進型で頑張るというのは、私の生き方ではなかった。行動しながらあれこれ考え続け、売れる方法を探っていた。
私が売っているものは、住宅 !今までは通信機メーカーの開発技術者で9年間過ごしてきたのだから無謀とも思えるが、それにしてもこの会社は厳しくて、3ケ月の見習い期間があり、その間に、最低契約件数3件の実績をあげなければ正社員になることができなかった。
一ヶ月たって実績ゼロ。二ヶ月目に入っても、契約を取れる見込みはまったく立たなかった。
  私はだんだん焦りを感じ始めていた。そんな時、何かの用事で医者をしている兄のところへ寄った。待合室には、たくさんの患者が診察を待っていた。「商売繁盛だな」と思った。自分の仕事ではさっぱりお客が取れない状態だったので、余計に強い羨望の念を抱いたのだと思うが、とにかく兄の“商売“が羨ましかった。羨ましがるだけでは仕方が無いと思い直し、医者という商売を考えてみた。「医者も商売だ。患者というお客様を相手に、医療サービスという商品を提供して収入を得ている。良く考えれば、自分の仕事の構造と少しも変わらない。なのに、私の方はぜんぜんお客が寄ってこない。こちらから出向いても商品を買ってくれない。片や、兄の方はお客の方からやってきて、長い時間待って医療サービスを受けようとしている。しかも、帰り際に、お礼を云うのはお客の方である。高い料金を払っているのに、深々と頭を下げて帰っていく。対して、料金を貰う方はお礼を云わない。せいぜい、お大事に!ぐらいである。一体この違いは何なのだろう・・・・・」
  答えはすぐに浮かばなかったが、帰ってから、医者と同じようにお客が自ら足を運び、お礼を述べながらお金を払う商売がもう一つあることに気付いた。弁護士! そうだ、先生と呼ばれる職業の人達である。弁護士も相談に来るお客に礼は言わない。感謝の意を表明するのは、お金を払う客の方だ。医者と弁護士。この両者に共通するのは何か?その答えが「不」であった。
  医者も弁護士も、人々の不安を解消してあげるのが仕事である。医者は、患者が抱えている病気という身体上の不安を取り除く。弁護士は、権利や財産などにまつわる心理的・知的な不安を取り除く。人々はこういう不安が大きければ大きいほど、それを取り除くための積極的な行動を起こす。不安が解消できるならば、お金はいくら高くても構わないという考えになる。(なる人が多い!)
  この時点ではバランス理論などということは知らなかったが、医者や弁護士が人々の強い不安を解消する仕事をしており、それゆえにことさら営業活動をせずとも“商売繁盛”しているという理屈はわかった。この理屈をセールスの世界に応用したら、もしかしたらカベを破れるかもしれない~~~と考えた私は、だんだん勇気が出てきた。
「現在の住宅に不満を持っている人、不便を感じている人、将来に不安を抱いている人はたくさんいる。ただ、“いかがですか?買ってください。“ではなく、そうしたお客様の不満や不便を解消するという方向でアプローチしてみよう。」これが、見習期間が半ばまで過ぎてからの結論であり、自分なりの開眼だった。

**お客の抱える「不」に真正面からぶつかる。**
  お客の不満要因を解消するためには、お客とのコミュニケーション機会を持たなければならない。アプローチの方法にヒントは得ても、コミュニケーションの機会を作るという点では、今までと同じように訪問活動は続けなければいけない。この時点で、すでに訪問先は2000を越えていた。
  その年の暮れ(試用期間1.5ケ月が終わろうとしている時期)、私は大晦日まで粘り強く訪問活動を行った。家族の生活がかかっているから、必死である。大晦日も正月も無い。見習い期間の終了も、チラチラとしてくるし、何とかノルマを果たさなければならないと思っていた。
  いまでも親しくさせて貰っているSさんの家に行った。Sさんは製菓問屋を経営する中小企業の社長である。大晦日の夜に尋ねてくるセールスマンなんて他にいない。非常識と叱られるのはもとより覚悟の訪問だった。
「なんだ、君は大晦日の夜までセールスをやっているのか?熱心なのはいいけど、今日は話をする気がしない。正月明けてから来なさい。」 S社長もかつてセールスで苦労した経験があった。大晦日という非常識な訪問をさすがに歓迎はしなかったが、邪険な対応はしなかった。気持ちはわかってもらえたようだ。 
正月の3日だったと思うが、S社長の自宅を訪ねた。S社長は私を迎えいれてくれた。
「家をたてる計画はない事はない。」しかし、今は家内の病気で苦労しているんだ。この問題が解決しないと、計画には移れない。誰かいい医者はいないかね。」
私が聞き出そうとするまでもなく、S社長は自分から家庭の事情を話してくれた。住宅に対する直接的な不満要因ではないけれど、私的な不安要因を打ち明けてくれたのである。私は、S社長の不安要因を解消しようと決意した。幸い、兄が医者だったので、情報は聞ける。紹介してもらう事も可能だ。「少しアテがあります。いい医者が見つかるかもしれません。早速調べます。」
その話が出てからは、住宅の話はしなかった。とにかくSさんの不安の解消が先決だと思った。

  兄のツテで医者はすぐに見つかった。さっそくS社長に連絡し、正月休みが明けるのを待って、自ら奥さんを連れて4~5回通った。結果は良好だった。病気は明らかに快癒の方向へ進み、S社長の顔も次第に晴れやかになってきた。
「ありがとう。本当に、ありがとう。これで私の心配事も無くなった。契約すると言ってもいないのに、あなたにこんなにお世話をいただいてしまって・・・。さあ、ではあなたの商売の話をしよう。確か見習い期間がもうすぐ切れるんだったな。今度は私があなたに協力する番だ。」
S社長はこういってくれた。ついに契約が取れる見通しが立ったわけである。S社長の物件は大型で、金額的には普通の二件分以上あった。S社長は名義を息子さんと二人に分けて、二件の契約としてくれる便宜を図ってくれた。これで、契約ノルマ3件のうち2件を達成。更にS社長は、「3件がノルマならもう1件お客を紹介するよ」とまで、言ってくれた。
S社長は「もしかしたら家を建てるかもしれない」という知人の所へわざわざ足を運んでくれ、私を紹介してくれただけでなく、私の代わりに相手を説得する事までやってくれたのである。これはありがたかった。私の方からなにも話さないうちに話はトントン拍子に進み、良い結論を得る事ができた。
ついにノルマを達成し正社員になることができたのである。
つづく・・・

ISSCコラム編集長 有松勝美


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